ヤズドを後に,「世界の半分」とたたえられたという歴史の街イスファハンを訪れることになった.イスファハンはザグロス山脈の東山麓,海抜1575mの台地にある.郊外を流れるザーヤンデ川は大事な風物となっている.
イマーム広場は宿泊したホテルからすぐ近くで朝に夕にちょいと来ることができた.30代であろうガイドのムハマドさんは革命前は別の名前,王の広場であったが.....と,暗に改名を批判している風であった.多分表立って批判することができないのであろう.サファヴィー朝の第5代君主アッバース1世の治世は繁栄を極め,各地での建設事業中最大の事業がイスファハンの新市街建設であったそうだ.アッバース1世は1597年にイスファハンに遷都するとともに,新旧市街を繋ぐ場所にこの「王の広場(イマーム広場)」を設けたようである.広場は180mx550mの南北に長い広大な広場.西にアリカプ宮殿があり,朝日に輝いていた.この宮殿からアッバース1世は軍隊の観閲式やポロ競技を観覧したのであろう.
イマーム広場の南にはイマームモスクが立っている.広場の軸線がキブラ(メッカの方向)と異なっていたため,モスクの軸線は入口(イーワン)を少し入ったところで45度程度折れ曲がっている.なので入り口の一対のミナレットと本堂の一対のミナレットは45度くらいの角度を成している.
金曜早朝に広場に行ったとき,イマーム広場には多くの人がテントや地べたで毛布に包まり寝ていた.木曜の夜から,翌日のイマームモスクでの金曜礼拝に望むため地方から出てきた人々が広場で露営していたようである.この光景を見たとき,やはりある種の感動,うらやましさと言ったらいいか....を覚えた.
広場外周の回廊はバザールになっている.回廊の外にも大きなアーケードが連なり,巨大なショッピングセンターが形成されている.陽も高くなり,なおも広場でお上りさんをしていると,40代くらいの婦人が馬車で現れ,なぜか声を掛けられた.「何処から?」「東京から」,「何処を見てきた?」「揺れるミナレットと揺らす大男とか....」,「そうか,そうか,ところでイスファハンを何と心得るか?」「いや~かつて世界の半分と謳われ....」と一応外交辞令的に応えると,「そうであろう,そうであろう,東京は今でこそ大都会であろうが,イスファハンは昔から世界の中心だったのだ」と満足そうに従者に馬車を駆らせ去っていった.そのときもあっけにとられたが,今考えても,あの人物はいったい誰だったのであろう....?
下は,イマーム広場の写真.朝日がアリカプ宮殿に当たり,美しく輝く.夕日は反対側のシェイクロトフォラモスクを照らしだす.
アリカプ宮殿に上るとイマーム広場がよく見渡せる.また周囲のバザール上階のレストランで夜の様子を眺めてみた.皆は水タバコを楽しみ,筆者も勧められたが,漸く禁煙した身ゆえ,ここはぐっと堪えた.広場はむしろ夜になると車や人出がとても多いようだ.
イランでは水のある風景は貴重.ここハージュ橋のたもとでも多くの市民が散歩やピクニックを楽しんでいた.ハージュ橋は二層構造で,ザーヤンデ川に架かる.サファヴィー朝アッバース2世時代,1666年に完成したそうだ.下層部は水量を調節する役割があるそうであるが,今は歩いて渡れるようだ.しかして多摩川第3京浜の橋下住民と同種のこの地方の人の姿も見られた.
下は,ハージュ橋周辺の写真.テントや調理用具を持ち込んでいるグループもある.ただし酒はないので日本の花見風景のように歌ったり踊ったりということはないようだ.
イマーム広場周囲に広がるとても広いバザール.イスファハン市民の代表的なショッピングセンターになっているのであろう,とても多くの人で賑わっている.
下は,バザールの写真.ぴかぴか品が集まっているところは特にイスラム圏らしい雰囲気が強い気がする.
回廊状のバザールは屋根付きで強い陽射しを避けている.鍛冶屋さん街,乾物屋さん街,日用品街など商品のジャンル別に集合している.
鍛冶屋さん街は大きな打ち出し鍋などを作る様子を見物させてもらった.終わりの写真,水パイプはどうしてかイスラム圏だけで見かける商品だ.
33個のアーチから構成される橋.ハージュ橋と同じようにこの橋もザーヤンデ川に架かり,1602年建設.長さ330m,幅14mだそうだ.400年経ってもびくともしないしっかりした造りだ.
ハージュ橋や33アーチ橋が架かるザーヤンデ川であるが,イスファハン辺りでは豊富な水が流れており,周囲にも緑が多い.だが砂漠に流れが進むにつれ,水量が減りやがて消滅するのだそうだ.筆者の常識では,川は下流ほど水量が多くなり,海に注ぐ,としていたが,所変われば常識も書き換えねばならないわけだ.
橋を歩くには手前の階段を少し昇るようになっている.したがって車両や馬車の通行はなく,専ら歩いて渡る構造にしてあるわけだ.どうしてか?は判らない.ダム機能や取水機能を持っているのかも知れないが,今はとにかく市民の憩いの場として親しまれている様子だ.
33アーチ橋の近くは緑豊かな公園で満たされている.白樺のような白い木は何であろうか?あちこちでピクニック,楽しそうだ.
33アーチ橋は実際に歩いて渡ることができる.