このシベートハイルハン麓編では,6月21日ホブド川畔で朝を迎え,ホブド川を暫く遡上し,タバンボグド国立公園南ゲートをくぐってから北上し,ツァガーン川と交わり,これを西方向に遡上してシベートハイルハンの麓に至るまでの写真と記事を掲載した.
昨夜の雨と強い風は治まり,清々しい朝を迎えた.桜草がきれいな流れのホブド川を背に咲き競っている.遊牧民にとって川は聖なるもので,大切に扱われているそうである.我々の調理用水にも使われているが,先月のインドでのバギラティ川に比べれば圧倒的にきれいであろう.
ただ雨上がりのためであろうか,夥しい数の小さな虫がいるのにはいささか閉口させられた.
シェフのBさんが用意してくれた朝食を頂戴し,テントをたたみ2台の4WDはホブド川に沿って西へと出発した.
下は,ホブド川畔朝の光景
ホブド川を暫く遡上すると橋が架かり,そこがタバンボグド国立公園南ゲートになっている.橋を渡ってから2台の4WDは北に進路をとった.地図に載っていない道,というか,殆ど砂漠のような草原であるのであまり環境を傷める心配がないためか,いろいろマイナーな道が形成されているようだ.
途中写真のように,小川が流れ,半湿地のようなエリアを通過した.こう云った場所はよく草が育つため酪農家が定住式(といっても冬を過ごす)の居を構えている.住宅は平屋のログハウスで,壁は土で目張りされ,屋根も土で覆われている構造が多い,いや殆どがこの形式に見える.家畜囲いや納屋が併設され,傍らにはよく燃料用の家畜糞が積み上げられている.
だがこうした湿地帯でもお隣さんとはかなり離れていることに変わりなく,例えば馬で数分から数十分とか掛かるであろう.また元より電気,水道,ガス....といったライフラインはなく,スーパーもコンビニも皆無で,大変な生活かな~とつい思ってしまう.でもここで生きてきた人たちにとって,こうした広大で自由な空間こそが宝,これ無くして生きていくのは考えられないのであろう.
高台を走ると南側ウイグルとの境にアルタイ山脈,北の方向にイフハト山を望むようになる.この時期白いのは4,000mクラスの峰であろう.
モンゴル系の部族は墓を作らないがカザフ族は作るそうだ.大きな共同墓地の脇を通ったのでちょっと覗かせてもらった.大きな家族は日干し煉瓦で囲まれた大きな面積の墓地(写真左側),小さな家族は木で囲ったもの(同右側)が多いようだ.囲いの中には,個人こじんをメッカの方向に顔を向けて埋葬した盛り土が見られ,新しいものには墓碑が建てられていた.
ところで,カザフ族が最も多く,いや圧倒的に多く住む国はソ連崩壊後誕生したカザフスタンである.ところがソ連時代,当時の共産政権が諸民族固有の文化や言語を廃し,ロシア文化への単一化を図ったため,それらが相当失われてしまったそうである.カザフ族は現在あちこちに住んでいるが,伝統文化や言語を最も忠実に維持しているのはここモンゴルのカザフ族なのだそうである.そこで現カザフスタン政府は,民族の文化や言語復活を願い,奨励金を支給してモンゴルカザフ族のカザフスタン移住政策を推し進めているそうだ.実際かなりのモンゴルカザフ族が奨励金を受け移住したそうだ.だが,カザフスタンで生活を始めると,周りはロシア語ばかり,生活様式もロシア風一色で馴染めず,直ぐにモンゴルに引き上げる家族が大半だそうだ.一度失われた民族固有の文化を回復するのはなかなか難しいだろう.例えば現在のチベットやウイグルは,残念ながら当時のソ連と同じような状況に在ると思うが......
高台の丘から見下ろすと,全般に茶色の砂漠が多くを占めている.飛行機から眺めた光景と同じだ.
丘から下り水のあるところでランチとなった.水があれば草があり,小さな花もたくさんさいている.
シェフBさんのランチは野菜サラダやビーフのスープなど素材を活かし薄味でとても美味しい.
下は,ホブド川を離れ,北上したときの写真
北上し,やがてツァガーン川に出合った.Tsagaanは白,golは川の意だそうで,この辺りではさほど色が濃くないが,上流では氷河が解けて流れる川によく見られるミルク色の川なのであろう.
実際この川は目指すタバンボグド山群を流れるボターニン氷河に源を発するようで,以降この川沿いを西に進むことになる.
川沿いを西進するとシベートハイルハン山(Shiveet Hairhan / Shiveet Khairhan:写真左側)が見えてきた.何の変哲もない山に見えるが,この辺りに住むトゥバ族が聖山と仰ぐ山だそうだ.聖山ではあるが登ることも可能だそうである.因みにハイルハン(HairhanまたはKhairhan)は聖山の意だそうだ.
トゥバ族はモンゴル領内には僅か1500人ほどが住むそうだ.チベット仏教を信仰し,テュルク語系のトゥバ語(トルコ語に近いそうだ)を母語とし,ロシア連邦トゥヴァ共和国を中心におよそ20万人ほど居り,狩猟やトナカイ放牧などを生業としているようだ.
やがて今日のキャンプサイト,シベートハイルハンの麓に到着した.山の麓はツァガーン川ともう一つの小川が流れ,湿地のようになっている.そのため草が茂り,鶴などの野鳥が飛来し,キャンプにも好適だ.
下は,シベートハイルハンのキャンプサイトに着くまでの眺め
夜手洗いに起きたら満天の星が空を覆っていた.周りに光がないので降るように感じられる.カメラのレンズを北に向け,10分余りの長時間露光をしてみた.ちょっと足りなかったようで,この2~3倍くらいの時間露光した方が光跡が長くなり良かったようだ.
さて明日からいよいよ歩き始める.楽しみだ.