5日目,実際は5日目に入る前の晩遅くから,キボハットを発ち頂上を目指すことになった.楽しみだ!
10:40PM起床し,身支度を整える.経験者のアドバイスから,あたかも十二単の如くたくさん重ね着した.続いてダイニングルームに集まり,コックが用意してくれたビスケット,サンドイッチにお茶を戴く.それを済ませ,幸運にも雲は無く,晴れた夜空の下,表に集まり,チーフガイドのジスマスさんを先頭に,数人のガイド,ポーターと共に11:45PM頃から歩き始めた.
この日歩いた12月13~14日は月齢3~4日の新月に相当し,夜道は暗かった.勾配はそれまでよりは急ではあるが,ヘッドランプの明かりをたよりにゆっくりゆっくり(ポレポレ/Pole Pole)歩みを進めた.外気が寒いので,汗っかきの筆者でもあまり身体は暖かくならない.
暗いし,単調な道なので,ジスマスさんに世間話としてちょっと訊いてみた.「当地の婦人の姿を殆ど見かけないが,ジスマスさんは奥さんを連れて登ることがある?」⇒「一年に一回くらい連れて登ることがあります」,「お子さんは?」⇒「私は30歳だけど,3歳の男の子がいます」,「跡を継いでくれるといいね~」⇒「うん,確かにそう思うね」.....
歩き始めて1時間半くらい経ったであろう,1:17AMウィリアムズポイント(5,000m)に至った.ガイドの強い指示で,さほど喉が渇くわけではないが高度障害を未然に防ぐため水を飲む.高度を上げるに連れ,また日没から時間が経つに連れ,外気温は下がっていく.しかし,まだそれ程でもないようだ.
2:27AM,ハンスメイヤーズケーブに到着した.ゆっくり歩く我々の脇を通り抜けて行ったヨーロッパのグループもここで一休みしていた.ハンスメイヤー(Hans Meyer)といういかにもゲルマンっぽい名前はドイツ人地理学者で,1889年,ヨーロッパ人としては最初にキリマンジャロに登頂した人だそうだ(マラングゲートの碑に記されている).そのメイヤーさんも都合よく洞窟状になったこの窪みで一休みしたそうで,それに因み名付けられた場所であるようだ.ところで,ヨーロッパ人の前に,既に現地のタンザニア人は登っていたのかな~?
ガイドがチョコバーを配ってくれた.2時間半余り歩いたのでお腹が空き,美味しかった.同時に水も飲むよう促され喉に流し込む.既に水筒の水はシャーベット状になっているが,完全に固まってはいないので飲める.ここで温度計は-9℃を示していた.やはり手と足の先が一番冷たい.この先はサーモスに入れたお湯を飲むことにしようかな.
ハンスメイヤーズケーブで一休みして,上に向かった.それまでは概ね土砂の多い道であったが,この辺りから岩石が多く現れてくる.
上を見上げると,好天と若い月齢が幸いし,星はとてもきれいに輝いていた.ただ,ポーターに南十字星の位置を訊いてみたが,「さあ~て?」てな感じで,視力がすごいと言われているこの人たちではあるが,星にはあまり関心がない風だった.
5:17AM,ギルマンズポイント(Gilman's point)に到着した.ここまで来ると,登頂したことになるそうで,「コングラチュレーションズ!!」の言葉がここ彼処に飛び交っている.晴れがましい気分だ.ゆっくり歩いたためか意外に簡単に到達できた感じがする.
チーフガイドから,更にウフルピークを目指す者は?との問いに,5人全員手を挙げる.ギルマンズポイントはとても狭く,次に登って来る人たちに場所を譲る必要があるし,また長居するには寒過ぎるのだ.日の出前で,気温は一段と下がっていた.同行者の方に後で聞いたのであるが,最低時には-15℃を示していたそうだ.
なお,不思議なことに添乗員の姿が見えないと云う,前代未聞のようなことがあったが,さて....
ギルマンズポイントからは噴火口の縁を西に向かって進む.富士山に例えれば,富士吉田口から浅間神社(←ギルマンズポイント),そこから時計回りで剣が峰(←ウフルピーク)を目指す,そんな感じだ.
稜線に出ると東の空が白み始め,雲の切れ目から陽が射し始める.それに連れて気温は上がり始めるのだが,風は勢いを増すばかりで,体感温度は冷たくなる一方だ.
やがて前方に念願の氷河が朝日に輝き浮かび上がってくる.これぞ目指していたものだ.見えた!感激で胸がいっぱいだ.好天に恵まれた幸運を噛みしめる.
噴火口縁の稜線上,少なくともこの日はとても風が強い.陽が当たり始めて,気温も上昇し始めた筈であるが,顔がとても冷たい.オーバーミトンなので鼻をかむのもままならず,恥ずかしながら鼻水がカメラの上に落ちたりする.暫くするとそれが凍り付いている.やはり,写真右側,青いパーカーのガイド,ジスマスさんのように目出し帽のようなのが役立ちそうだ.それに山から下れば,銀行をXXするときにも使えそうだし....
下は,ギルマンズポイントからウフルピークに向かうとき,日の出の頃の写真.あ~寒い!
ギルマンズポイントからウフルピークまで,氷河を眺めつつゆっくり歩いた.途中雪が凍りつき,片側が火口の断崖となった箇所が1,2箇所あるが,全体的には雪は少なく,楽に歩けた.時によっては,積雪が多く,普通のトレッカーには難しい場合もあるようだ.この日はそのような不運に見舞われることなくラッキーだった.
やがて5,895mの標識が掲げられたウフルピーク(Uhuru peak)に到達した.口々に,「やったー!」を発し,頂上標識の傍らで順番こで写真を撮りあった.写真のデータを見ると,7:00AMちょうどとなっていた.マラングルート以外に,氷河の直ぐ東側脇を登って来るマチャメルートから上がってくる人たちもおり,局所的には結構混み合っていた.
これはサドル辺りから良く見えた南斜面の氷河を上部,即ち北側から眺めたところ.この塊は正しく圧巻だ.ただ頂上から全周を眺めると,残された氷河は幾らでもなく,少しずつ散在する程度で,正直寂しい気分にもなるのも確かだ.
南西の方向にはタンザニア第2の高峰メルー山(Mt.Meru:4,565m)が望めた.ここから眺めると,概ね左右対称のきれいな形の独立峰だ.下山後一泊するアリューシャはこの麓辺りに位置する筈だ.
下は,ウフルピークからの氷河の眺め
同時に頂上に着いた5人は,これまたほぼ同時に,登るときとおよそ同じ道を辿り,足早に下った.バカのようなスピードで歩き,7:50AMギルマンズポイントに至った.ここで少し休み,この先はもっとゆっくり歩くから,と宣言して,腰を上げた.ちょうど下山方向にはマウエンジ峰が見えていた.
ギルマンズポイントから少し岩場を歩くと,砂走りになる.登るときはそれほど感じなかったが,下りは若干踏み固められたルートを逸れているせいもあって,富士山の砂走りと同じように足の着地点の先まで滑り落ちながら歩く.たまに落石が起こり,ガイドが注意を促してくれた.
こうして無事頂上から戻り,キボハットに到着した.到着時刻は9:40AMくらいであったであろうか.
下は,キボハットに下るときのあちこちの眺め
キボハットで荷物をまとめ休憩し,お昼ごはん,いや遅めのブランチと言うべきか,を食べた.そして,正午にホロンボハットに向け,下り始めた.この頃は皆一斉に下に向かう.途中この日の深夜に登頂を目指す登りの人たちにも多く出会う.
やがてサドル部を通過し,再び草原帯に入ってきて,お花にもお目にかかれるようになる.こうして3:00PMくらいにホロンボハットに到着した.行きの行程とは別のハットであったが,2段ベッドが3組で同じ形式のハットであった.
という訳で,この日は合計12~3時間歩いたことになるであろうか.あ~脚がくたびれた!
下は,キボハットからホロンボハットに下るまでの光景