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氷河の脇を登るちょっとしたハイキングに出かけるため，明永村に出かけた．
海抜3480m飛来寺から，バスで海抜2000mくらいというメコン川（瀾滄江）を越えて，明永氷河谷入口にある明永村にやってきた．明永村の海抜は2300m，人口は約300人だそうで，低地にあるため冬でも雪が降ることは殆どないそうだ．家畜囲いの前庭を備えた白い漆くい壁，屋上付き２階建て家がこの辺りの標準的造りのようである．土で固めた屋根はそれ程雨量が多くないことを物語っているように見えるが．．．．．．実際，比較的雨は多いそうである．そのため，この辺りでは，くるみ，みかん，パパイヤ，ワイン用のぶどうなどいろいろ栽培されている．ぶどう栽培は布教活動に訪れたフランスのカトリック宣教師が伝えたもので，現在チベット人カトリック教徒の醸造するワインは，北京の長城ワインに次いで，中国で２番目の評価を維持しているそうだ．ガイド馬さんも，詳しい説明とともにサイドビジネスがてら，ワイン販売案内に余念がなかった．
あいにく不在であったが，明永村の村長さんのお宅を拝見させてもらった．ここの村長さんは人望篤く，また前ページで触れた京大隊の遭難や，遺体収容の際など，日本人も大変お世話になっているそうである．写真がうまく撮れてないが，暖炉のあるダイニングキチンの壁に故毛沢東主席の写真が掲げてあったのには少し驚いた．まだ場所と人によっては大いに尊敬されているということだ．またその横に，数人のラマ僧の写真も掲げてあったが，これはチベット族にとってごく普通のことであろう．
屋上への階段近くに迫力いっぱいの製造中の干し豚が立てかけてあった．塩に漬けた後にこのように風通しのよいところで乾燥させるようである．中国ではビーフと同様ポークの干し肉も一般的なようで，別の機会にスーパーで買って食してみたら，ビーフよりサッパリ味で，また柔らかかった記憶がある．なお豚は前庭の囲いで飼育されており，屋上で頂戴したリンゴの皮を上から投げ込むと自動的に処理してくれた．
村の一画にはチョルテン（仏塔）が祀ってあり，女性が一人五体投地でお祈りを繰り返していた．チベット仏教では尼さんもいるし，性差はあまりなく，とても敬虔な信者が多いように思う．お坊さんと言えば，高僧に限ってまだ鳥葬が実施されているそうだ．川喜多二郎さんの，（場所はネパールであるが）鳥葬に関する著作を思い出してちょっと驚いたが，法的にも問題ないそうである．普通の人は水葬が一般的であるそうだ．
下は，明永村の写真
明永村の登り口から馬に跨る．普通より少し小型の種類であるようだ．一頭に馬子一人付くが，動きの悪いのは時々叱責され，鞭で打たれている．筆者の乗った馬は元気いっぱい，馬子が手綱を離しているのを幸いに，いきなり駆け出し，２頭くらい走り抜き，驚いてしまった．ここの馬子さんは実直だ．筆者は帰り道は馬に乗らず，歩いたのであるが，別れ際ささやかな心付けを渡すと，遠慮がちに受け取ってくれた．他国でしばしば見られる強欲なラクダ御者とかとはかなり違った印象だ．
馬で登りきったところに太子廟という廟があった．太子とは誰のことか？今思うに一応訊いておくべきだったか．大きなチョルテンや，写真のようにタルチョーが洪水のようにはためく道から登り始める．
太子廟の辺りから明永氷河の出口（終わり）が始まっている．この辺りは2,900mであるそうだから，随分低いところまで氷河が迫っているわけだ．また遊歩道は板敷きの階段になっている．いまはオフで客が少ないためであろう，階段も，途中３箇所ほどにある展望台も，板を張り替えたり，また鉄の橋脚のペンキ塗りで大忙しだ．所々に穴があいているためこわごわ歩きながら進む．
ここは3,100m，階段で200m登ったことになる．削り取った岩や土砂で黒ずんだ中で，所々薄水色，氷河特有の色を覗かせている．さて，この氷河も温暖化の影響で多分後退し続けていることであろう．何とか食い止めたいものだ．
下は，明永氷河の写真
