このセロトーレハイク編では,チャルテンの朝の様子から,ハイキングで先ずトーレ展望台へ行き,続いてトーレ湖へ登り,そこに聳えるセロトーレを眺め,同じ道を下山する時の風景,また見かけた花と木やチャルテンの夕の写真を載せました.
トレイル入り口に標識があったので,これを参照すれば,この日も朝チャルテンのホテルを出て街外れのトレイル入り口ゲート行き登り始めた.そしてフィッツロイ川沿いに西へ西へと進み,マルガリータの滝展望点を過ぎてセロトーレ展望台に至り,続いて最終目標地トーレ湖に到着.ここでお弁当を食べ,往路と同じ道を辿り,チャルテンの街まで下った.往復23km/8hrの予定だ.
朝6時過ぎEl Paraisoホテルの展望室フィッツロイを眺めると雲が無いようで,赤くなるかな~と期待し,表に出て少し街の下側まで行ってみた.
6時半フィッツロイは先端がこのように控え目に鈍く赤くなった.光線の来る方向に雲があり,真っ赤になるのを妨げていた.
帰路,また例によって犬が現れ傍に来る.やだよ~あっちに行ってくれ~
El Paraisoホテルレセプション前の狭いダイニングルームで簡単な朝食後,セロトーレハイクに出発した.
ゆったり立ち並ぶ家々の前庭には写真のようなガラクタ風(失礼)オブジェが一軒に一つくらいずつ立てられている.居住者のセンスがダイレクトに表現されており面白い.この例では,バケツに封書のアイコンがあるのでメールボックスを兼ねているのかも知れない.ゴミ箱であるものも結構目立つが,純粋にアートとして置かれているのが一番多いようだ.
トレイル入り口に向け先ずは北側の丘に登った.コンパクトなチャルテンの街が見渡せる.全天雲が覆っている.う~ん,今日の天気は期待できないか~
下は,チャルテン朝の様子
セロトーレへのトレイル入り口に案内図があった.ガイドFさんの説明場所を,豪快な木の枝でポイントするIさんはとても親切だ.
この案内板には肝腎なセロトーレのロケーションが描かれていない.フィッツロイについてもしかりだ.私にはちょっと不思議だが,多分これがアルゼンチンスタイルなのだと思う.なお2つの山はこの案内板左縁のほんの少し先に在る.
フィッツロイ川(渓谷)を挟んで対岸に『マルガリータの滝(Cascada Margarita)』を展望する場所に到着した.ただこの3週間殆ど雨がないためだそうだが,滝に水は見えなかった.
なおマルガリータ(Margarita)さんは1993年,この辺りで登山中だったグループメンバーの一人で,行方不明になった人だという.フィッツロイ川に落ちて流されでもしたのでしょうか?
滝から暫く歩くと左側にセロトーレ(Cero Torre:3,102m),右にフィッツロイが見えてきた.後者は前日まで十分眺めてきたし,望む角度もさして大きくは変わらない.
セロトーレは一層細く尖っており,やはり雪はあまり付かず,花崗岩むき出しの岩峰だ.
最初の目標点トーレ展望台に到着した.案内板によればセロトーレの右側の岩峰はエガー(Eggar:2,850m),さらにその右はスタンドハート(Standhardt:2,730m)と書かれている.またここからはセロトーレ以上に存在感があり,L字型雪原のある左側の大きな山はソロ山(Co. Solo:2,121m),ソロ山とセロトーレ間に白く連なるのはアデーラ(Co. Adelas:2,938m)のようだ,
セロトーレの下にあるのがトーレ氷河で,ここからは見えないがさらにその下にトーレ湖がある筈だ.アデーラの下にある大きなのがアデーラ氷河だったと思う.
現在立っている場所とソロ山の間は幅広い谷となっており,その一部にフィッツロイ川が流れている.ばかに幅広いU字谷だが,その昔,トーレ氷河,アデーラ氷河が合流して削った谷ではなかろうか.
下は,トーレ展望台まで行くときの写真
トーレ展望台で一休み後緩やかなトレイルの登りを再開.やはり天気は回復せず,雲天が続く.途中ブナ林が豊かになったり,しばし途切れたりする.
この辺りで下っていく日本のパーティに出会った.A社のツアーで,前夜はテント泊で,これからチャルテンに向かうようだった.
暫く行くとトレイルはフィッツロイ川脇に接するようになった.急流の中ほどに鳥のカップルが見えた.ガイドFさんによればパトデトレンテといい,左がオス,右がメスだそうだ.例に漏れずオスの方がカラフルだ.今羽根を休めているが,一旦水に入るとこの急流を遡る泳力がもの凄い!魚を捕るのではなかろうか.
フィッツロイ川畔の樹の枝に止まっていた.獲物を探している風だ.やはりFさんによればカランチョ(Carancho )と呼ばれ,ハヤブサ科の猛禽だそうだ.確かに精悍な顔立ちだ.
話は逸れるが,『カランチョ』でググると,同名の映画に関するページが多く検索される.交通事故を専門とするアルゼンチンの弁護士のストーリー,当たり屋や保険金が絡む,らしい.決して人口の多くないアルゼンチンで交通事故死亡者は10年間で10万人にも達するそうで,やはり重大な社会問題のようだ.
午後一時過ぎトーレ湖(Laguna Torre)に到着した.セロトーレがさざ波に揺らぎながら微かに映り込んでいる.湖にはトーレ氷河とアデーラ氷河の融解水が流れ込んでいる.そしてここから流れ出ているのがトレイルに沿うフィッツロイ川ということになる.先ほどの水鳥の場所でもじっくり眺めたが,相当急流でまた水量がある.えっ!,こんなに大量の水が常時解け出しているのか?と疑問に思う.Fさんに訊くと確かにそうだという返事.
湖畔ではレンズ豆のサラダ,サンドイッチ,フルーツ...など,昨夕食べたTerryレストラン特製という弁当を広げて食べた.座っていると天気が天気だけにちょっと寒い.
セロトーレ(Cero Torre:3,102m)を間近に見ると,頂上は尖り,座るスペースも無さそうだが,結構広く幅が18mあるということだ.Fさん自身登ったことがある訳ではないが,そうらしい.
初登頂は1959年イタリアのチェザレマエストリとオーストリアのトニーエッガーだそうだが,登頂成功後の下山途中でエッガーが転落し,マエストリのみ生還したということだ.事故死の悲劇や登頂の証明など何かと論議を呼んだできごとだったそうだ.ルートはこの写真で中程の垂直,オーバーハングもあり,の壁が標準的で,他にさらに難しいルートが試みられているそうだ.
ガイドFさんはこうしたロッククライミングはやらないが,夏のトレッキングガイドの他,冬にアイスクライミングを楽しむそうだ.パタゴニアには滝が多く,冬になると尽く凍り,その垂直の壁にアイスアックス(ピッケル),アイススクリュー,カラビナ,ロープを使い,ガイドとしてではなく,個人の楽しみとして登るそうだ.普通パートナーとペアを組み,先行者がスクリューをハンドルで回して打ち込み,後続者が抜きながら進むそうだ.アイススクリューは以前と比べて高強度で圧倒的に軽量なものができて,その進歩には目を見張るという.凍った滝から眺める光景は喩えようがないほど見事だ,とも.
Fさんは1994年にここに移り住んだが,その当時チャルテンの住民はたった60人だったそうだ(今は1200人くらいで,増加中).国有地なので膨大な書類を書き,政府に家の建築許可を申請.認められて建築し,その数年後から土地のリース料を支払い始めたという.夏のガイドだけでは生活に十分ではないようで,アイスクライミングやスキーの遊び以外に,大工の仕事で収入を得るなどしているそうだ.
下は,トーレ湖へ行くときの写真
昼食の後,能なく全く同じ道を下る.少しだけ下った所に白い林(写真中ほど)の一帯,往きでも通ったのだが,に出くわす.数年前火災に遭い,枯れた木立だそうだ.写真ではほんの少しだが,実際はかなり広い.ハイカーのタバコが原因だったそうな.幸いその日は風がなく,後日訪れるパイネの大規模火災と違って,この写真の範囲だけで鎮火できたそうだ.まあ不幸中の幸いだった訳だ.以来タバコは園内全エリアで禁止と厳しく規制されているようだ.なお落雷などの自然火災はこの辺りでは然程心配ないということだった.その理由も聞いたのだが,ん~っ,思い出せない....
先程の雲だけから,青空が出て期待を持たす.この辺りで青空の背景でのセロトーレを見たい,と皆で腰を下ろして暫く待つ.一旦雲が去るかに見えて,次に新しい雲が現れる.根負けして下ることになった.
幾らか陽が射してきた.往きと同じ道なのだがそれでもやはり陽があると気持ちが軽やかになる.どんどん下った.
ほんのちょっと滞在しただけなのに何故か懐かしのチャルテンの街が見えてきて,今日のハイキングが終わりを告げようとしていた.セロトーレも見えたし,鳥も花も見えたし,楽しかった.
下は,トーレ湖からの下山での写真
たくさん咲いていたのだが,う~んやはり何というのか分からないな....
これまで幾度となく出くわしたレンガとニレ.
↑レンガ | ↑ニレ |
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下山後宿泊のEl Paraisoホテルで風呂を浴び,部屋や一時玄関近くに出て寛ぐ.このホテルはご夫婦に二人のお子さんがいて,狭いレセプション前のバーとダイニングルームは家族の居間と実質共有となっている.子どもたちはここでビデオゲームに興じ,客は食事を摂らせてもらう.一昔前の日本の民宿の趣きに少し似ていようか.
簡単ながら朝の食事の支度は大変なようで,近所の人(多分)が手伝いに来ているようにも見えた.こうしたコミュニテイもなかなかいいように見える.
この日の夕食は昨夜に引き続きTerryレストランだそうだ.午後8時で十分夜の筈だがまだ外は明るい.レストランに着き座っていると,ガシャンと音がする.両側窓ガラスのこのレストランの北側から飛んで来た鳥が,東に抜けようとして窓ガラスに激突したのだ.ぶつかった鳩ぐらいの大きさの鳥は地面で横たわっていたが,暫くして目をやると既に居なかった.あれほど激しく衝突したのに大した回復力だと感心することしきりだった.
このレストランの壁は写真のようにアイゼンやピッケルといった登攀用具,山岳写真(しかもカラコルムなどの)などで満たされている.オーナーの趣味なのだそうだ.
この日のお料理はチキン料理に皮付き(これが特徴であろう)フレンチフライ,それにチョコレートアイスのデザートであった.まあ,こんなものであろう.
レストランからの帰路,遠くからバンドの演奏が聞こえてきた.フィッツロイ初登頂60周年記念日の催しが開催されているそうで,市民が集まり,いかにもアルゼンチンらしく盛大なBBQで祝っているそうだ.