このドータラップへ編では2011年8月~9月ネパールヒマラヤのロアードルパのトレッキングで,ランガ上からドータラップ(Dho Tarap)へと歩いたときの写真とキャプションを載せました.
8月27日朝ランガ上から同日の宿泊地ドータラップへと歩いた.この間の距離は幾らでもなく,しかもトレイルはおよそ平坦で楽,9時半頃には到着してしまった.ドータラップは広々とした風景がなかなか素晴らしい.
ドータラップ界隈には仏教やボン教のゴンパが幾つかあるそうだが,その中の一つ,500年の歴史があるというボン教のゴンパを訪ね,見せてもらった.
村の景観も人々もこれぞドルパの香りいっぱいといった雰囲気を満喫できた.
私たちの朝食と前後してスタッフの皆さんはテントをたたみ,パッキングにかかった.それを終えると9頭の馬に背負わせた.但しキッチン用品はスタッフの皆さんが背負って歩く.そして私たちはドータラップへ向けて出発した.
昨日の終盤頃からトレイルはかなり平坦になり,この先もタラップ川沿いを行く道は予想通り楽そうである.タラップ川の流れも緩く,長閑な眺めだ.
ドータラップに近くなったためであろう,途中草場にヤクを追う人や,村から下りてくる人などに出会い,言わば人の気配が濃くなったように感じられる.
9時半頃になりドータラップに到着した.標高は4,100mくらいのようだ.傾斜地上の住宅地とタラップ川の間は広場となっており,ヤクやヤギが草を食んでいる.またそこにはチョルテンも幾つか建てられている.住宅地の上には特徴的デザインのチョルテンを従えたゴンパも目立っている.
この写真では見えないが右手(東)からの流れ(タハリ川/Tahari Khola)があり,ちょうどここでタラップ川に注いでいる.またその川に沿って道も設けられ,奥には別の集落やゴンパもあるようだ.
ドータラップで,今歩いて来たランガの方向を振り返るとこんな風に見える.写真手前が前述のタハリ川(Tahari Khola)で,その上のタラップ川に合流するところだ.朝の内多かった雲も晴れてきて,陽が広々した空間を照らし出してきた.いい眺めだ.
チョルテンは石を直方体状に2~3段積み上げ,土を塗り,漆喰で仕上げ,茶色の塗料で目のような図柄を描いてある.いずれも古いもので建立からかなり年月を隔てたように見える.ところでこれらは仏教のものか?ボン教のものか?或いは共通のものか?ちょっと判らないが仏教徒は左側を通り,ボン教徒は右側を通るようだ.いや,両者最大の違いは正にそこにあるとか.....
ここに来て子供から大人までいろいろな人に出会った.写真の女性もその中の一人,お下げ髪のようなヘアスタイルが印象的だ.他のエリアではあまり見かけた経験がないのでドルパ特有のスタイルであろうかと思う.
そして,出会うと多くの人がどこの馬の骨とも知れぬ私達に微笑みを見せてくれる.米国などでは割りと頻繁に体験するが,カトマンドゥなどネパールの他エリア一般ではこのような友好的態度に接するのは必ずしも多くないように思う.実に心安らぐ.ありがとうございます.
背後の新しい住宅は他の古い住宅同様石造りで,土で目張りしてある.屋根を支える梁類は木材だと思うが,石の壁には木材は挟まれていないようだ.大きな木材の入手が困難なためではなかろうか.窓枠は木材であるが,窓自体は小さく,数も少ない.中はかなり暗いであろう(実際通りかかって覗き見(コラッ!)すると暗そうだった)
住宅地の背後には結構広い畑があった.下の川縁の平原からはよく見えなかったので,住宅地に上って見えたときは驚いた.畑の主作物は大麦で,これはチベット文化圏で主食のツァンパ(麦焦がしのバター茶和え)の材料を得るためであろう.畑は次の集落に行く間までとても広く分布している.しかしそれでも100%自給するには至らないとも聞いた.まあ,主食であれば大量に消費されるのでそうかも知れない.
麦の他には菜種,ジャガイモ,豆類....などが栽培されていた.ただし耕作面積は麦に比べ,圧倒的に少ない.
住宅の屋根には燃料とする木の枝がたくさん載せられている.あまり木のないドータラップでは,屋根上の木の多寡は豊かさの象徴でもあるそうだ.つまりたくさん載っかっている家はお金持ちだそうで,確かに誇らしげに大量に積まれた住宅も目にする.
下は,ランガ上を出てドータラップに到着するまでの写真
タラップ川に近い場所で住宅の新築工事が行われていた.他の住宅は傾斜地の上にあるが,その辺りで宅地が余っていないためであろうか,ここはかなり孤立した場所だ.入り口の木製ドア枠以外石を積み上げていく様子がよく解る.壁に途中の木の枠は既設住宅同様無さそうだから地震に対しては脆そうだ.この地方はあまり地震がないのかも知れない.
屋根はまだであるが,貴重な木材の梁を渡し,板などで塞ぎ,そしてその上には土を盛るものと思われる.
ところでドータラップは基本的に5,6~10,11月の間を過ごす夏村だ.冬は非常に寒く,雪も多いのでタルコットに引き上げると聞いている.しかし降雪が多いので空き家にしておき,放っておくと屋根が落ちてしまうそうだ.そのため,家族の中で一番屈強な者(一般に若い男性)一人が越冬し,雪掻きに当たるのだそうだ.いや~それは難儀そうですね.
大半はヤギでほんの少しだけ羊が混じっている.ヤギは一般に奔放で個々が勝手にあちこち出掛けて,つまり逃げてしまう.一方羊は臆病で,拘束しなくとも一箇所に集まり,逃げないので管理が簡単.と,まあそんな風に思っていた.写真の群れはヤギが殆どなのに散らばらないでかたまって過ごしている.羊が混じっているからかな~?
ヤギの群れに巨体のヤクが割り込んできた.脇を通らずわざわざ群れの中を突っ切るのは横暴と言わざるを得ないが,ヤギは怖いのでちゃんと道を空ける.私もそうすると思う.まあ,人間社会でもこうした光景は頻繁に見られることだが.
総数20頭ほどであろうかヤクのキャラバンが北へ向かって通過して行った.数人のヤク使いが従いている.僅かな馬も伴われている.ヤクは馬と違って列を離れたり,時に山に登って行ったり,川に入ったり....と扱いが大変だ.だが高所と寒さに強く,また負荷荷重も多いのでここドルパではよく活用されるようだ.
ヤクキャラバンはアッパードルパや,さらに国境を越えチベットとの交易にも活躍しているようだ.尤も一部のドルパ人にとってはこれがメインビジネスであろうから当然のことかも知れないが.こうしたチベットに向かうキャラバンには,前年マナスルトレックに出掛けたとき,サマゴーン辺りでもよく出合ったものだ.ドルパは昔はチベット領,人もチベット族なので,まあ昔からの生活様式をそのまま今に伝えていると云うことであろう.
ガイドDさんが「ここはフォトスタジオですよ」と教えてくれた.エ~ッ,と看板を見ると確かに『PHOTO STUDIO』と記されている.門で笑顔で佇む若奥さんの横から覗き込むと,家畜囲いのような中庭に,住宅に....多分住宅内部にスタジオが設けてあるのだろう.
ドータラップには電気が来ていない.小さなソーラーパネル(と鉛蓄電池)くらいしかないので,デジタル写真のプリントは難しそうだ.PCのモニターで見るのも電力が足りなさそうだし......ではフィルムカメラか?モノクロフィルムであればフィルム,印画紙とも現像は問題ないだろう.ただその前の印画紙露光の引き伸ばし機は一般にハロゲン球を使うのでソーラーパネル発電で十分かどうか?何とかなるかな~?
カラーフィルムとプリントはどうか?現像剤の温度管理や引き伸ばしで,より電力を消費すると思うが,モノクロができればカラーも可能だと思う.で,勝手に想像を書いたが....実際のところはどうなのかは不明だ.
下は,ドータラップあちこちでの風景
午後になってガイドDさんに伴われ,ドータラップに着いた時目立った丘の上のゴンパを訪ねた.左が本堂で,中央が主チョルテンだ.どちらも石造りで,茶と白でシックに彩色されている.ボン教は名前だけは聞いたことがあるも,どんなものかはからきし解らなかったため興味津々だ.
ゴンパに到着すると住職は不在で,住職の奥様が案内して下さった.これでボン教のお坊さんは妻帯できることが理解できた.また息子さんだったか,おじさんだったか身内の男性が現れ,ドルパに関する小冊子(Rs1,000)を販売してくれた.
本堂には正面ではなく右側に入り口が付いていた.少し変わっている.入り口から玄関に入ると,本堂礼拝室入り口上にチベット文字と花のような模様が描かれていた.後者は初めて目にするがボン教独自の模様であろうか?
本堂に入ると,先ず正面に写真の大きく立派なパドマサンバヴァの像が目に入る.パドマサンバヴァ(Padma Sambhava)はグルリンボチェ(Guru Rinpoche/尊いグル)とも称され,今からおよそ1200年前にアフガニスタンで生れ,インドに渡り修行.やがてチベットに行き,チベット密教,特にニンマ派(紅教)の礎を作った,として聞いていた.またチベットのみならず,ここドルパやブータン辺りにも大きな影響を及ぼしたとも.
それがこのボン教のゴンパでも本尊のように中央にでんと祀られている.これには大いに驚いた.シェルパ族ガイドDさんは自身が仏教徒で,仏教に対して造詣が深く,ボン教に対してもかなり詳しい.彼が語るに,ボン教自体は仏教よりかなり古い歴史を有し,チベットで栄えたが,仏教が入ってきてからかなり融合し,殆どチベット仏教と同じようになった.もちろんオンマニペメホンに対する経の違いや,コルラの方向が反時計廻りと逆であることなど幾つかの違いがあるが,でも違いはその程度で大きくはない,ということだ.
本堂には仏像やラマ像,密教の歓喜仏などの壁画もたくさんあったが,確かにチベットのゴンパで見たものと殆ど同類に見えた.
ゴンパから下を眺めると,麦畑とドータラップの村がよく見える.麦は間もなく実り,収穫期を迎えるだろう.そして刈り入れや脱穀,精麦....と云った作業に全員が忙しく取り掛かり,終えると家畜と共にタラコットに下るのだな~と思うのだった.
下は,ボン教ゴンパの写真
このようにドータラップには農家があってヤギもいて,シェフGさんはここでヤギ肉と野菜を仕入れ,カレーライスの夕食を作ってくれた.ジャガイモも入った本格和風カレーで,それはそれは美味しかった.やはりカレーは和風に勝るものはない(インド料理,ネパール料理,パキスタン料理が大好きな方ごめんなさい).