シバームは”砂漠の摩天楼”とか,”砂漠のマンハッタン”としてよく知られたところだ.シバームの旧城壁都市(Old Walled City of Shibam)として1982年世界遺産(文化遺産)に登録されているようだ.
アルハウタの直ぐ近くにシバームがある.車で近づくに従い,密集した高層日干しレンガ建築群が見えてくる.城壁都市と言うだけあって外側は城壁で囲まれている.また密集した建物の1,2階部分には窓を無くしたり,あるいは小さな少数の窓に限定したり,建物と建物間の最上部辺りに渡り廊下を設けてあったりする.およそ500棟,7,000人の人が暮らしているという.
長方形の街を囲む城壁は他部族の侵入を防ぐだけでなく,雨期の洪水から守る堤防としての機能も重要なようである.
ここシバームは総延長200kmにも達するというハドラマウト渓谷の谷底に堆積した砂地の上に位置し,雨季にはしばしば上述のような洪水を生じるそうだが,一方砂漠気候に属するこの地に継続的に肥沃な土砂をもたらす効果も大きいようだ.ハドラマウト渓谷内のおびただしい数の住居を見ると納得がいく.
シバームは3世紀には既にハドラマウト地域の都として存在した歴史を有しているそうで,とてつもなく古いんだ,と思う.
なおここシバームは際立って有名であるが,このような高層日干しレンガ建築群は当ハドラマウト渓谷には他にもたくさんあることを知った.例えばシバームの直ぐ近く,右手の山の傍の無名村は,建物の高さこそ若干低そうであるが,シバームに似て相当数の住居が寄り集まっている様子が窺える.
下は,夜の景観を含めシバームの外観
午後2時頃であっただろうか,特定の方向は陽を受けるが,かなりは遮られるように街が造られている.暑い地方ならではの構造だ.建物は概ね1棟丸ごと日干しレンガから成る5~8階建て,平均80mくらいの高さのようだ.この観点で,下部に石材が用いられるサナア地方とは異なるそうで,それでいて100年程度の耐久性はあるそうだ.根拠として実際築100年くらいの建物が多いそうである.ただ5~8階もの建造物を石の土台もなく支えるのはただ事ではなく,岩盤に達するまで溝を掘り,湿気と害虫防止の枝と塩を敷き詰め,そこに漆喰セメントを流し込んで基礎を作るそうである.
なお現在は上下水道が設備されているそうであり,少なくとも水道管が敷設されているのは見える.ただ一階部分は家畜部屋となっており,路地にも家畜が歩き廻っており,何分にも乾いた土地なのでそれなりの糞尿が舞い上がるのは仕方なさそうである.
最上階の部屋マフラージ,米国風に言えばペントハウス.結構広い.ここは最上階なので男性用に割り振られた部屋のようである.ここまで日干しレンガの階段を登るのであるが,さぞかし階段の摩滅はすごい筈だと想像していたが,意外とそうでもなく凹みは少なかった.なおここ上方の階は男性の部屋であるので,女性の部屋と違って目隠しの必要がなく,上方故荷重が減り構造力学的にも強度が確保できるため,比較的窓が多く,見晴らしがいい.
さて,イエメンと言えばカート,カートと言えばそのパーティもまた一般的だそうだ.そんなカートパーティの行われる部屋は専らこのようなマフラージだそうだ.床は絨毯敷きで,投げ出した脚の両膝部と腰にベルトをぐるりと回して座る.いま名称は思い出せないが,たしかにこのベルトがあると楽に座れる.高級なカートパーティでは主催者が床に山のようにカートの枝を並べ,並のパーティでは各自カートを持ち寄るそうだ.また人によっては煙草を吸い,水やコーラを飲みながらどんどんカートを口に放り込むという.カートエキスが身体に廻り始めると場は絶好調,皆多弁になり,情報交換から政治談議まで盛り上がり,やがて喋り疲れる夕方になるとようやくお開きになるようだ.
なお日本では麻薬の一種として定められ,持ち込みはできないようである.国によって扱いがいろいろ異なるものだね~他にも例えば南米のコカ茶なんかは,日本へは持込可であるが,米国ではコカインと同原料なので麻薬扱いだったり....
アラブイスラム世界の常識か,男どもだけ空き地に集まって遊んでいる.このように水タバコを嗜んだり,ゲームに興じたりしている.時間が早かったせいかまだカートは始まっていないようであった.
なお小さな子どもたちは女の子も一緒になって遊んでいるのは言うまでもない.念のため.目安としては頭に被り物を着けるようになるまでかな?
下は,シバーム内部の写真あれこれ
シバームは正面から見て正面,右側面,背面に丘がある.その正面の丘の麓には村がある.新しい分譲地なのかシバームと比べて新しい家々が多いように見える. ここを登ると夕陽が左北面方向から当たるシバームが俯瞰できる.途中まで登ったところからでも結構良くみえる.こうして上から眺めると茶色い日干しレンガ素地のところと,部分的に白く塗られたところの区分けがよくわかる.白い部分はヌラーと呼ばれ,漆喰と石膏を混ぜ合わせて作る塗料で,相当高価な代物だという.部分的にしか施工されていないところを見れば必然的に理由も見えてこようというものだ.
このように上に登り周囲が一層よく見渡せるようになると,空き地がたくさんあることを改めて認識する.というか殆どが空き地のように見えてしまうが.....でも緑が多いし,畑や家畜を飼うための土地で,ちゃんと所有権が登記された土地なのかも知れないね~こんな雄大な大自然の中にあってもこのような世知辛いことを考えているのはやっぱ日本人だからか?その中でも特に筆者だけか?
しばらくすると写真のように夕陽がシバームを照らし,程なく暗くなり始める.坂を転げるとまずいので,と言われながら下に降り,ホテルに戻ることになった.