南北イエメン時代,北はイスラム教シーア派が多く,南はスンニ派が多かったようである.タリムはその南イエメンにあって15世紀~19世紀にかけてスンニ派の中心地だったそうで,とても多くのモスクがあるようである.
アルハウタから一旦サイユーンを通過し,タリムに向かう.ハドラマウト渓谷の周囲はテーブルマウンテンで囲まれている. たまにこのような羊飼いの一群に出くわす.羊はニュージーランドとかで多く見かける,あの白くふさふさした毛に包まれた大きな品種とはかなり異なる.何という品種なのだろう?小型だし,山羊のようにも見える.ドライバの一人が,「頭とヒップの形で判る」と教えてくれたが,それでもかなり間近に見ないと山羊と区別するのが難しい.ところでこの山高帽は他に例を見ないとてもユニークな形なので,「あっ,イエメン!!」と一目瞭然なところがすばらしい.女性専用の麦わら製とんがり帽子で,先端がこのように尖ったタイプおよび丸みの付いたタイプ(R球タイプ)のバリエーションがあり,農村地帯特有のファッションのようだ.
間もなく,買ってまだ2週間かそれくらいのデジカメ,ソニー Cyber-shot DSC-R1がうんともすんとも動かなくなった,困った.ペン先でリセットし,初期設定し直したがやはり動かない,よく判らないままあちこち必死になってボタンを押していたらそのうち何とか動いた.でも偶然動くようになっただけで,直し方のロジックは全く解ってはいない.やはりカメラは信頼性が命だ.
そうこうしているうちにここアルカフ宮殿に到着した.このアルカフ宮殿の名前は,インドネシアやシンガポールを舞台にホテル業などで大成功したアルカフさんー族のかつての宮殿だったことに由来するそうだ.ところでタリムはかなり内陸,しかも陸の孤島的な処であるが,よりによってこの地の出身者が貿易などに携わる人が多いということはどうしてであろうか?
現在この宮殿はちょっとした博物館になっている.何と称するのか透かし彫りの窓や, ステンドグラスの窓(カマリヤ窓)から, タリムの街が見下ろせるようになっている.
下は,アルカフ宮殿周辺とそこから眺めた写真
日干しレンガの建物の続く向こうにアルムフダールモスクが見えてきた.ところでタリムなどハドラマウト渓谷にある町や村の建物は殆ど日干しレンガ作りのようである.日干しレンガの耐圧縮強度は多分相当あり,かなり大きな建物も多い.カギは,何分にも泥なので曲げや引っ張り強度に対する補強対策であろう.そこで床など曲げ/引っ張り荷重が作用する部分を覗いてみると,ちゃんと木材の張りと小枝で支えてあることが判明する.
これがアルムフダールモスク,真っ白で美しい.ミナレットは50mの高さで,1915年に建立されたということであるからそう古い訳ではない.細かい格子など精緻な作りであるが,やはり日干しレンガ造りで白い漆喰で覆われた構造のようだ.漆喰は泥と比べて圧倒的に耐水性が高く,建物全体の耐久性を大幅に高めるそうである.ただ漆喰は高価であり,このように全部が漆喰で覆われた建物は稀で,多くは一部だけが白い建物が多い.住宅などの場合,資金ができる度に漆喰処理の範囲を広げていくのが普通だそうである.
ところでイエメンのミナレットはこのように四角柱や円柱,白一色にアラベスク模様.....と多様であり,他国,例えばエジプトでは殆ど四角,イランでは殆ど円形などと云うように定型化されていないように思えるが,さてどうだろうか?
15世紀末にタリムにはカワイティー朝と言われる王朝があったそうである.タリムの街を歩くと未舗装で狭い通りが結構目立つ.王朝時代から続いているのであろうか,そんな街の一画に魚市場がある.
魚市場と言っても小ぢんまりしたもので常設の店舗数軒と露店が10くらいのものだろうか.海から遠いところなので鮮魚はあまり無く,ヒラキや切り身が少しばかり売られていた.
イエメン風コンビニ?や,露店もある便利な住宅街の一画にアルカフ図書館がある.入り口は2階で,建物外側に設けられた階段から登る.
5,000冊余の蔵書で,イエメンで2番目に大きい図書館,と聞いたような....でもこぢんまりした図書館だから多分聞き間違いだったと思う.1,000年も昔の百科事典や中東全体から集められた古いコーランが収蔵されているようである.表紙は羊皮紙,中の用紙も羊皮紙のもあるそうで,耐久性がいいそうだ.コーランや医学,薬学の書物が多いようである.
そんな訳で住宅街の一画に何気なくあることはあるが,xx区立図書館とか,xx市立図書館と違って,気軽に立ち寄って閲覧したり,借り出したりする雰囲気の図書館ではないのはたしかだ.
書籍は殆どがアラビア語で記されたものだという.しかも手書きのものが多いのだそうだ.フラッシュを焚かなければ撮影可だというので,ガラスケース内に広げられたこの書物,コーランだったか?を写してみた.朱入れしてあるのは校正のためなのであろうか?
この隣にあった図入りの幾何学の本も写したのだがボケて失敗したのはちょっと残念.