トレック第5日目は,晴れたので予定通りランシサカルカ方面を往復することになった.
ちょうど朝6時頃,ロッジの部屋の窓から眺めたランタンリルンが陽に輝き始めた.なかなか見事な朝焼けだ.今日はランシサカルカに行く予定だが,果たして天気は一日持ってくれるかな~?
今日の朝食は7時でお願いしていた.ヌードルスープ,つまりインスタントラーメンを作ってもらい,ダイニングルームはまだ寒いのでこのキッチンのかまどの前で頂戴した.写真はここのロッジ,ヤクホテルのご主人が,私たちの持参するランチ用にチャパティを焼いているところ.
7時半頃,昨日の午後降った雪が薄っすら被った道をランタンコーラを遡上する如く,東に歩き始めた.少し行って振り返るとキャンジンゴンパの集落の上にランタンリルン(左)とキムシュン(Kinshung:6,781m)(右)がきれいに見えた.
下は,キャンジンゴンパ2日目朝の様子
幸い天気が良いので朝日に向かって歩くことになる.しかして前方を写すと常に逆光線で,フレアっぽい画像になるのは致し方ない.右側にはナヤカン(下の並び写真の先頭)などもくっきり見えて快適だ.
水量は多くないが所々に小川がある.濡れた飛び石が凍り付いているため,砂を撒いたりしながら注意して渡る.
暫く歩くとマルクカルカ(Marku Kharka)辺りに至り,枯れ草を食べているヤクが見える.
下は,マルクカルカ辺りまでの風景
ランタンコーラと反対側の岩の壁には所々に小さな滝が見られる.気温が低いため,流れ落ちる水が凍り付いてしまっている.岩から流れ出る水できれいなためか,氷も純白だ.
暫く歩き,ジャタン(Jatang)の辺りまで来るとランシサリ(Langshisa Ri:6,427m)が見えてきた.馬の鞍型で,エベレスト街道のカンテガを髣髴させる.
さらにその奥,左側にチラリと見えるはペンタンカルポリ(Pemthang Karpo Ri:6,830m)のようである.
下は,ジャタンの写真あれこれ
歩き始めて3時間程経った10時半頃ヌバムタン(Nubmthang)に到着した.この辺りからの眺めは秀逸だ.ペンタンカルポリも全容が見えて,そのどっしりした山容はなかなかだ.やはり来て良かった.
この頃,下流側では雲が発生し,遡上してきていた.しかしまだ追いつかれてはいない.
下は,ヌバムタン辺りまでの写真
ガイドGさんは普通日帰りであればヌバムタンくらいで引き返すそうで,ランシサカルカまではテント泊の場合が普通だったそうだ.でもまだ早い時間であったのでランシサカルカまで行くことにした.しかし暫く進むと,今度の川では橋が流されて丸太が一本残っているだけだ.う~ん,これを渡る度胸はない.仕方なくここで引き返すことにした.
ちょうど昼時になり,この近くで弁当を食べていると,上流に向かう一人の男が通りかかった.ランシサカルカまで放牧したヤクの様子を見に行くキャンジンゴンパの住人だそうだ.ガイドGさんが事情を話したら,彼が橋を架けてくれるそうだ.ありがたい,それではと云うことでリスタートすることにした.
橋は丸太一本橋の脇に,彼が予め付近に用意してある板を運んで来て,架けられた.その橋を越えると登りになる.やがてランシサカルカ全体を見下ろすこの場所に至る.だが残念ながらこの頃,下(西)から迫ってきた雲に追いつかれ,カルカの周囲の山や氷河を覆ってしまった.
この眺めはたまたま後に読んだ向一陽/向晶子著『トレッキングinヒマラヤ』p203に掲載された写真と同じアングルだった.そして仮に晴れていれば谷の奥,左側にシシャパンマ(Shishapangma/8027m)が見えたようであるが,厚い雲で何も望めず残念だった.
この丘を越え,ランシサカルカに降り立ってみると,河川敷が結構広々とした感じで,タルチョーが舞い,ヤクが枯れ草を食んでいた.
ところで,ランシサ/LangshisaのLangはランタン/LangtangのLangと共通で,チベット語で牛を表すのだそうだ.で,ランシサ/Langshisaは(チベットから来た)牛の死んだ所,ランタン/Langtangは牛の峰の意だそうだ.その昔チベットからヤクと牛が一頭づつネパール方向に逃れて来た.途中標高の低いところで暑さに弱いヤクは倒れ,牛は元気で再び高い峰/ランタンの頂に達した.牛はさらに前進し,やがてランタン谷の平原/ランシサまで到達したが,疲労のためか死んでしまった.2つの地名はここから生まれた,と博識のガイドGさんが教えてくれた.タルチョーのあるところがその牛の死んだ場所だそうだ.やはり逃れてきた牛も,チベットで迫害されたのであろうか?
下は,ランシサカルカまでの写真
ランシサカルカからキャンジンゴンパに戻るため再び丘に登り,越える.ここからはキャンジンゴンパ方面を眺めるとランタンコーラに沿うナヤカンやポンゲンドポクなどが裾野から頂まできれいに眺めることができる.
ゴサインクンド方面に抜けるガンジャラルートの脇に聳える秀麗な峰が目立つ,ガンジャラピーク(Ganja la peak)と通称されるそうだ.
ところでガンジャラルートとはキャンジンゴンパのランタンコーラ対岸から始まり,ヘランブーに抜ける道だ.途中にロッジはなくテントで3泊,5,106mのガンジャラ(ガンジャ峠)を越える難コースだそうである.
この人が橋を架けてくれた方だ.ランシサカルカには放牧したヤクの様子を見るために月に一度くらい訪れるらしい.我々と同じに到着して,同じに戻るので,順調であれば直ぐに用は済むようだ.彼はランシサカルカの往きでは空身であったが,戻りはヤクを一頭連れている,どうしてだろう?
また往きで架けた橋にさしかかり,私たちが渡り切ると,増水時流されないように板を外して近くの置き場に片付けていた.さらに進んだ場所では,上体だけ残ったヤクを指して,少し前に雪崩でやられたんだ,と教えてくれた.
キャンジンゴンパまであと1時間くらいの場所であっただろうか,雪が降り始めた.風もあったため吹雪のようになり,少し雪だるまのようになってロッジに帰り着いた.4時15分だった.途中会ったのは先ほどのヤク追いのおじさんとフランスから来たという若い青年一人だけで,とても静かなコースだった.この青年とは翌日偶然またキャンジンリ頂上で遭遇することになった.
ロッジに戻り,暖炉脇に座ると,「今日はカレンダーで見ると満月だけど,果たして雪が止んで見えるだろうか?」「”今日”って今朝の未明と今夜夜半までの2回あるが,果たして満月はどちらで見えるのか?」と例のイングランド衆が議論している.う~んどっちなんだ?
幸い夕刻までに雪は止んで,少なくとも筆者の眼には満月に見える月明かりが一面白くなった野を照らし,きれいな夜を演出してくれた.
下は,ランシサカルカからキャンジンゴンパに戻るときの写真
ところでイングランド衆は今日近くを散歩した程度で,概ね暖炉の周りで過ごしたようだ.そんな中,近くのヘリポートにヘリが着陸し,4人の日本女性が”ハイヒールで”降り立ったそうだ.”ハイヒールで”,というところが予想外なようで,頻りにそれを強調して説明してくれた.トレッカーではなく,ヘリで来て直ぐ戻る観光客が時々いるそうで,何でも5人乗りヘリでUS$1000くらいだとか?すると一人US$250か?直ぐ戻るのであれば多分高山病の危険もあまりないので,賢明であろう.傍らでチェトリのポーターが,筆者の顔を見て,「日本人は金持ちだ」と言ったので,一応例外を踏まえて発言しているとは思ったが,「そういう日本人もいますね」と付け加えた.チェトリは,「分っている」という顔をしたような....でも,折角3,800mまで一気に上がったのに,天気がイマイチでちょっと残念であったと思う.
なお筆者も,ハイヒールにはいささか違和感を覚える.山でなく,里,いや首都のカトマンドゥにおいてさえ,ネパールではサンダルやぞうりが似つかわしい.....そんな気がするのだが?