この南イニルチェック氷河編では,7月9日南イニルチェック氷河ベースキャンプ(BC)での眺め,ポベーダ峰方向ハイク,ハンテングリ峰方向ハイク,ベースキャンプの夕暮れ,BCからカルカラ谷に戻るときの写真を載せました.
20が南イニルチェク氷河BCで,21は名峰ハンテングリ(7,010m),22は天山山脈(アラトー山脈)最高峰ポベーダ(7,439m)
南イニルチェック氷河BCではロシア系二人の山岳ガイドSさんとAnさんが付いて,いろいろ案内してくれた.
旧ソ連圏には7,000m峰が5座あるそうで,先日眺めてきたレーニン峰(7,134m),ここのハンテングリ(7,010m)と,ポベーダ峰(7,439m),コルジェネフスカヤ峰(7,105m/ タジキスタン),イスモイルソモニ峰(旧コミュニズム峰7,495m/タジキスタン)だそうだ.全部登ったクライマーには雪豹(Snow Leopard)の称号が与えられるという.
ガイドSさんは既にハンテングリに幾度か登頂しているが,5座は未登頂,なので雪豹の称号はないそうだ.雪豹の知り合いはいるが,野生の雪豹には一度も出合ったことがないそうだ.この辺りの雪豹棲息は知られ,雪豹は人間を観察しているのであろうが,人からはめったに見えないようだと.
一方Anさんはまだで,ぐっと難度は低いが氷河下流,三角形の尖った山,キスンアバヤと言ったか.....に登っているそうだ.
そしてこの南イニルチェック氷河BCの素晴らしいのは,ここに立つと全周山に囲まれていることだ.アンナプルナBCとかとそうした点で似ている.
このベースキャンプから眺めると,南イニルチェック氷河と,それを挟んで向こう側にハンテングリ峰(Khan Tengri:7,010m)が見える.
写真中ほどに横たわるのが南イニルチェック氷河(South Inylchek glacier)で,本BCはそのサイドモレーン上に位置している.この氷河は世界で6番目に長く,総延長60.5km,総面積が17.2km2,氷の深さは150~200mに達するそうだ.これではまるで大きな湖のようではないか.またキルギスタンで最も速く流れている氷河でもあるそうだ.源はハンテングリ脇,ちょうどキルギスタン.カザフスタン,中国(ウイグル)三国国境線交点辺りになるようだ.
前ページにも記したが,氷河向こう側の三山は左からゴーリキー(Gorky Peak:6,050m),中央がチャパエフ(Chapayev Peak:6,371m),右かハンテングリ(Khan Tengri:7,010m)ということだ.
写真中央がポベーダ峰(Pobeda Peak:7,439m)で,その左端がピークになる.天山山脈(アラトー山脈)の最高峰で,またキルギスタンの最高峰という.ハンテングリのように尖っていないため,一見迫力に欠くが,旧ソ連圏基準でレベル6(最高難度)という.一般に右に入り,ウイグル側からアタックするルートが多いそうだ.
田部井淳子氏は1999年にここに登ったそうで,既に他4座は登頂済で前述の雪豹(Snow Leopard)の称号を得たそうだ.また添乗Toさんのレポートによれば,田部井氏にはポベーダ峰がエベレストよりきつかったそうで,極めて大変な山のようだ.
立ち並ぶ黄色いテントは,カルカラ谷キャンプやアチクタシBCと同様にAk-Sai Travel社専用で,かなり多くの数がある.
私はこの左側列一番奥のテントで,ダッフルバッグを入れた.これまでと違ってベッドはなく,岩の上にマット2枚敷で,まあ山ではこれが一般的だ.ただこれまで付いていたブランケットは無く,これは堪えた.寒がりの私にはカルカラ谷で使用し,運んできたシェラフでは寒くてこの晩殆ど眠れなかった.添乗Toさんのレポートでは午前2時テント内で-5℃だったそうだ.
カルカラ谷キャンプやアチクタシBCと違って,ここは岩ゴロゴロ,ガレた地面に建っている.特にトイレテントに行くにはとてもガレた坂道で,用をたすのは殆どトレッキングだ.
ただここは,例えばバルトロ氷河コンコルディアとかの氷の上の岩ゴロゴロでなく,サイドモレーンで,下に氷はない筈だ.ということで夜間は大丈夫と思っていたのだが.....それでも寒過ぎた.
なお流石にここは電気はないが,まあ山ではそれが普通だ.なお私は知らなかったが,Wifiは使えたようだ.
カマボコ型の大きなダイニングテントが,そしてその奥にキッチンテントが備えられている.自家発電機でそれらのテントは明かりも点く.
ここはキャンパーの数が結構多いので,何人かのスタッフの皆さんがキッチンテントで調理してくれている.
またここ自体は4,000mなのだが,常駐の男性医師一名が勤務しておられる.まあ,3,600mのレーニン峰アチクタシBCでも医師が一名居られたので,高度障害や上に行くクライマーの事故に備えているのであろう.
この日はここも,下のカルカラ谷も双方好天で,ヘリは合わせて3度も飛来した.
この写真,私たちの次の便ではヨーロッパのハイキンググループの皆さんが到着した.皆さんは私たちの少し後ろからポベーダ峰方向ハイキングで歩いたが,短時間で切り上げて,3回目に来たヘリに乗り,引き返していった.眺めの良いときに短時間効率的に過ごせてラッキーだったと思う.
テントで少し寛いだ後,ポベーダ峰方向ハイクに出発した.ガイドSさんが先頭で,私たちが一列に並び,一番後ろにAnさん,の布陣だ.
浅い新雪で歩き易い,快適だ.目の前(とは言っても遠いが)の峰の襞がとてもきれいだ.ちょっとランタン谷のガンチェンポ(Ganchenpo:6,387m)のようだ.
丸い頂きのポベーダ峰が聳える.こうして素人目で見るとエベレスト以上に大変な山には見えないが....判らないものですね.
なお富士山と同じ年にユネスコ世界遺産に登録された『新疆天山』は,4つの自然保護区が含まれるそうで,ポベーダ峰はその一つに該当するそうだ.
厚い氷の壁が見える.位置的にはテント場が南イニルチェック氷河のサイドモレーンだとすると,この氷壁はアブレーションバレーの位置辺りになろう.とすると氷壁は南イニルチェック氷河の一部で,テント場は中洲モレーンか?
いやそれとも氷壁は東南方向から流れてくる別の氷河で,間もなく南イニルチェック氷河と合流するのであろうか?
白い雪が気持ちいい.氷壁は縦なので黒い砂の汚れは覆われない.
写真左上,三角形に尖った山がAnさんの登ったキスンアバヤ(と聞こえた気がする)だったと思う.でもキスンアバヤでググっても何も見つからない.やはり違うかな....
少し下ると小さな氷河湖が見えた.湖の壁も底も氷で覆われている,冷たそうだ.
私たちの後ろを歩いていたヨーロッパのグループはとっくにテントサイトに引き上げていた.私たちとその人達以外歩いているハイカーはおらず,静かでゆったりしたハイキングだった.
帰り道の池を見るとまだ溶けきらず,一部氷が残っていた.夕方完全に溶けていれば逆さポベーダ峰が見えるかな.
そしてテントに戻った.一時間半ほど歩いたようであった.楽しかった.
この日3度目飛来のヘリが,お昼頃カルカラ谷に戻るという.多分一時私たちと同方向に歩いていたヨーロッパハイカーの皆さんはこれに乗るのだろう.
そして私たちグループのHさんが少し風邪気味で,大事をとってこのフライトで一足先にカルカラ谷に戻るという.殆ど問題なさそうだが,どうぞお気を付けて.
ところでこうして改めてヘリを眺めると,存在が判り難いですね.さすが軍用機だ.
さてテントに戻ると,その横や前でテントの増設工事が行われていた.そして横の棟は夕方までに完成していた.これから最盛期になり,このままでは需要に追いつかないのだそうだ.
なお南イニルチェク氷河にはここだけでなく,ハンテングリ近くなど,他社のキャンプサイトもあるそうだ.
これがこの日,ダイニングテントで頂戴したランチ.手前がマンパール(Manpar)と称されるスープで,きしめんより幅広く,しかし短い麺に玉ねぎ,ビーフ,トマトを加えてあるようだ.
右上は蕎麦の実入りご飯,ローストチキン,キュウリ,左カップがわかめの味噌汁(Toさん提供),左上はピーナッツやくるみ,ドライ杏などだった.美味しかった.
ランチの後はハンテングリ峰方向ハイクだ.先ずダイニングテント前に集まり,ロープ(ザイル)結びの練習を行う.クレバスに落ちたとき,上から垂らしてもらうロープを身体に巻き付け,引き上げてもらうためだ.
身体をしっかり支えるが,締め付けはしない結び方だ.一通り練習し,さて出発だ.
さて歩き始めた.トレイルはガレていてはっきりしない.ガイドなしではルートファインディングが大変そうだ.
少し上りの箇所もある.ズルズルと滑り易いところだ.
ガイドSさんの余興です.
雪の間から覗いていたリベット止めされたアルミ合金(ジュラルミン)板がある.着陸に失敗したか,飛行中視界不良で脇の岩山に触れたか,....何れにしても墜落した機体の一部ではなかろうか.ペイントの色からするとやはり軍用機のようだ.
クレバスあるが,雪が被っているわけでなく,クリアなので少なくともここは問題なし.
イニルチェク氷河,とは言ってもここはサイドモレーンであるが,をどんどん遡った.
天気は持ってくれているし,快適だ.ただハンテングリは雲に隠れたままで,なかなか頂きを見せてくれない.
歩いているモレーンは氷河本流に近くなる.ガイドSさんが,モレーンと本流間の谷やクレバスの様子を調べに谷に降りていった.歩く速度は随分速い,やはりプロだ.
ガイドSさんが偵察から戻ってきた.私たちにはちょっと難しそうだという.ということで,この辺でBCに戻ることになった.右横は夕陽があれば赤く焼け,Red Rockと呼ばれているそうだ.
ただ残念なことにBCに戻り,夕刻になったとき,ここに陽はなく赤い岩を見ることはなかった.
帰り道は陽を浴びながら,幾らか下りのトレイルを進んだ.時々振り返りハンテングリを見てみるが,やはり雲は架かったままだ.
往きにも通ったかはっきり思い出せないが,急でガレたトレイルだ.ここは気を付けて下らねば.
ベースキャンプに無事戻った.ハンテングリが見えなかったのは惜しいが,大体天気が良く,良かった.もちろんサンスクリーンを塗っておいたが,雪面の反射もあったため,短時間ながら結構焼けた.
いいハイキングだった.
夜7時過ぎ,ダイニングテントに行き夕食を頂いた.メインはビーフと各種野菜の炒めものだった.一応ハイキングに出掛けたことだし美味しい.
前にも記したが,ビンビールはカルカラ谷キャンプサイトと同じ350ソル(5ドル)と安い.ありがたいことだ.
デザートにフルーツやケーキも用意されている.お腹いっぱいだが.
夕食の後,BC周囲を眺め続けた.そのうちポベーダ峰はほんのり赤みが射した.まあ,控え目ですな.
午後なかなか雲が取れなかったハンテングリ峰だが,夕暮れギリギリになって頂部が晴れた.そして少し赤くなった.義理堅い山だ.
逆さポベーダ見えますよ~の声を聞き付け撮した.ちょっとタイミングは遅かったか.この池の水は飲用になっているそうで,汚さないようにしなければ.
夜寒くて眠れない.ということで,夜中に長時間露光で撮ってみた.ハンテングリ方面三山にも,また空にも雲がなく晴れ渡り,一応星は写っている.ただピンぼけか,ブレか,或いはその合わせ技か,ぼや~としか写っていない.
さて南イニルチェック氷河BCで一夜明け,7月10日朝になった.南東を眺めていると,高いポベーダ峰の東面が赤くなってきた.笠雲も赤くなっているが,これは天気の崩れる兆しであろうか.
そのうち低い山々にも陽が当たり,明るくなっていった.短時間の光のショーだ.
気象条件が良いということでヘリは予定通り朝一番でカルカラ谷に下ることになった.私たちはシェラフやダッフルバッグをまとめてヘリポートで待つ.
しばし待っていると,バタバタヘリが近づき,そして着陸した.ローターは速度は落とすが,止めず,積み荷が降ろされた後,直ちに私たちは乗り込んだ.
乗り込むとハッチを閉め,エンジン出力を上げ,テイクオフした.
窓からは白く巨大な南イニルチェック氷河が見えて,徐々に離れていった.
このフライトは私たち専用だった.シートはガラガラで,大変結構だ.
ガラガラなので後ろもよく覗いてみる.梯子や下向き非常口はやはり軍仕様感が満載だ.箒はちょっと愉快だ.
氷河の名前や位置は判らないのだが,白い氷河の終端に土砂の堆積したエンドモレーンが見えている.そして氷河から流れ出る水は普通の川となって流れいく.さてこの川はカルカラであろうか?
外界の山が雪山から,土の山に変わり,右手前方に薄くカルカラ川の流れと周囲に草原が見える.あの辺りにカルカラ谷キャンプサイトが在るはずだ.
そして少しして,前日飛び立ったヘリポートに着陸した.すばらしかった.