この日はマルリンから歩き始め,前半の最高地点,眺めの良いシンギラ(5,060m)を越え,キュパラ(4,370m)を経て,スクーパタのキャンプサイトに到着した.終盤落差の大きい斜面をジグザクにトラバースする細く脆いトレイルは私には怖かった.アネモネやオダマキなどがきれいに咲いていた.
マルリンのテントサイトの朝,スタッフの皆さんがテントを畳み荷物をまとめた.馬方さん4人は近くの草場から14頭の馬を呼び集める.マルリンの草場は近いようですんななり集めることができたようだ.場所によってはとんでもない岩場の高地まで馬が登り,大変苦労して集めることもある.
14頭中1頭はキッチン用で,シェフのSさんらと他に先駆けて出発する.そしてランチ場で温かい食事を準備して待ってくれている.尤も日によっては途中全く水場がないため,朝用意した弁当持参の場合がある.ただこうした場合も,弁当はアシスタントガイドGさんらが持ってくれて,私たちは楽ができた.ありがとうさん.
7時半にマルリンを出て,南に歩いた.40~50分行くと,石を積み天井をテントで覆った茶屋があった.大変珍しいので中に上がり,お茶を頂戴した.お茶はこの辺りのスタンダード,甘いミルクティーだ.
室内にはラマ僧の写真が数枚掲げられており,殆ど他から孤立した環境で仏教が拠り所になっているのかな~と感じられた.
この方がカフェのオーナー男性.ターコイズのエアリングやネックレスを着けている.大変おしゃれだ.こうした風に男性が立派な装身具を纏うのはネパールのマナスルエリアでも出会ったことがあった.どちらもチベット人に近い民族で,チベット文化がチベット以上に継承されていると言われる共通点があるので,元はやはりチベット文化であろうか.
茶屋で一休みの後再び歩き始めた.私たちと前後して既に加工済みの柱など木材を運ぶロバ隊が行く.ザンスカールではこうした樹木は育たないので遠くから運んでくるようだ.目的地は私たちの翌日到達予定のリンシェだそうだが,今日中に到着予定だそうだ.
ロバはどこでもそうだが働き者,いや叩かれて働かされている.これまでゴンパには必ず掲げられている六道輪廻の壁画を幾度となく眺めてきたが,自然に『ロバにだけは生まれ変わりたくない』との感想が漏れていた.
前日から行く手に見えていたシンギラが近くなるといくらか雪が残っていた.そしてそこを登ると大量のタルチョーが架かるシンギラ(Singi La/5,060m)だった.5,060mは今回トレッキング前半では最高地点になり,感慨もひとしおだ.
写真は登って来たマルリン側で,青空でないのが惜しいがまあいい眺めだ.急勾配の反対側もまたいい眺めで,下るのは....大変かな?
下は,マルリンからシンギラ(Singi La)までの写真
シンギラで一休みすると反対側への下りに入った.先に展開される茶色の峰々が荒々しい.
写真左の緑の小集落は,ザンスカール川の谷にあるニラック(Niraq)だそうだ.僅か10軒で,極めて孤立した地形に位置しており,かつて近親婚の問題が生じたことがあるそうである.ガイドSさんは冬季凍りついたザンスカール川のチャダルツアー(Chadar tour)で,ラマグラ(Lama Gura)からここまでの間を往復するコースを案内することがあるそうだ.
峠を下ったところはガジョ(Gajo)の地名が付けられ,またシンギラベース(Base of Singi La)とされているようだ.小さな泉が湧き,現在は盛んに道路工事が行われている.
この辺りで,集落もないのに珍しく子供の顔が見えた.道路工事現場の出稼ぎネパール人の家族だそうだ.私たちにはちょっと区別できないが,ザンスカーリアンには一目で判るようだ.
ガジョから先,広いトレイルを辿りスキャン(Skang:4,450m)に到着した.テント茶屋があって,ちょうど頃合いのためか私たちと同じ方向,それと反対向きに歩く幾つかのパーティがここで休憩している.私たちもここでランチとなった.
テントのシートで隣り合わせた仏パーティと2,3言葉を交わすと,『そうか日本か,いまこれを読んでいる』と村上春樹の仏語版を見せてくれた.ヨーロッパの人は山でも分厚い本を広げていることが多い.
スキャンで昼食後さらに下った.そして少し登ると茶色いチョルテンにタルチョーが結ばれたキュパラ峠(Khyupa La:4,430m)だった.この日ほぼシンクロして歩くロバキャラバンとまた一緒になる.木材は荷崩れし易いようで,ロバもロバ方も苦労している.
キュパラ峠からは斜面をトラバースするジグザグの細いトレイルとなる.崩れ易く,滑れば深い谷に転落しかねないような路面は私には怖い.
目指すスクーパタ(Skimpata)の集落(上村6戸,下村7戸に分かれている)は,一旦下った谷を越えた先に位置しており,とりあえずは下降し続ける.
一旦谷間で下り,橋を渡る.渡った先からスクーパタ(Skimpata:3,950m)は間近で,4時前に到着した.テントは池の畔に張られたが,上で見えたときは水で満たされていたようだったか....傍に来ると枯れていた.どうやら灌漑用調整池で,水量が変化するようだ.
スクーパタの集落は分散し,結構広い耕作地もあるように見える.とは言っても急な斜面であるし,崖っぷちのような所も少なからずあり,観光には良いが,生活には大変なところだと思う.
この日は村の集会でもあるのだろうか,村人が行き交っている.テントの傍には子供たちも寄ってきた.誰かおやつをあげたら,その後大人まで含めて大挙してやって来られ,閉口する.
夕方から少し降り始め,夜間は一時まとまった雨となった.雨があると夜お手洗いに行くのが億劫だ....行かない訳にはいかないが.でも,テント内8:00PMで16℃と温かいので楽だ.これまで一番低くなったときでも6℃(テント内)なので,概して気温は高めである.
下は,シンギラからスクーパタまでのいろいろな写真
この日もいくつか見かけた.白いのはアネモネということだ.また谷の傍ではオダマキがきれいに咲いていた.
これでトレック2日目は終わった.明日はザンスカール最大の村というリンシェに向かう.